使用者は、平成31年4月1日の改正労働法施行日以降、基準日において10日以上の年次有給休暇権が発生する労働者に対して、基準日以降1年以内に最低5日以上年次有給休暇を付与すべき義務を負います。この義務を使用者の時季指定義務といいます。

年次有給休暇の時季指定義務の動画をYouTubeにアップしています。興味がおありの方はご覧ください。>>年次有給休暇の時季指定義務

以下に使用者の年次有給休暇の時季指定義務について詳しく説明します。

年次有給休暇時季指定義務の対象労働者の範囲

平成31年4月1日以降に新たに迎えた基準日において、10日以上の年次有給休暇を請求する権利を付与された労働者です。これは正社員に限らず、パートタイム労働者や有期雇用労働者であっても、基準日において10日以上の年次有給休暇を請求する権利を付与された場合はすべて対象となります。例えば比例付与の対象となる週所定労働日数が4日以下且つ週所定労働時間が30時間未満の年次有給休暇の比例付与の対象となるパートタイム労働者であっても、勤続年数が3.5年または4.5年を超える場合には、年次有給休暇の時季指定義務の対象労働者に含まれる場合があります。

時季指定義務の履行期間

使用者が、労働者に対して時季指定義務を履行すべき期間は、通常は、時季指定義務の対象労働者の基準日以降1年間です。
例えば、4月1日人就社した労働者がその後6ケ月間に所定労働日数の8割出勤したとすると、法律通りであれば、その労働者には10月1日に10日の年次有給休暇を請求する権利が付与されます。そうすると使用者はその労働者に対して、10月1日の基準日以降1年以内、つまり翌年の9月30日までに最低5日の年次有給休暇を付与する義務を負うことになります。

時季指定の方法

原則的な考え方

年次有給休暇は、年次有給休暇権を有する労働者が、使用者に対して、出勤義務を負う日を指定して休暇を請求するものです。労働者から年次有給休暇の請求を受けた使用者は、原則としてその指定された日に休暇を付与しなければなりません。年次有給休暇の時季指定義務は、対象労働者が基準日以降1年以内に5日の年次有給休暇を取得できれば良く、それは労働者からの請求に応じるも形でも構いません。年次有給休暇の本来的目的に照らせば、労働者が使用者に対して主体的に5日以上の年次有給休暇を請求する方法で使用者の年次有給休暇の時季指定義務を果たすことが理想的です。

使用者が労働者に対して年次有給休暇日を指定する

ただし、勤勉な労働者の中には、どうしても年次有給休暇を請求しない者もいます。また、これまで年次有給休暇を請求しにくい職場環境下で業務に従事してしてきた労働者は、使用者に対して積極的に年次有給休暇を請求し辛いといった側面もあります。
こういった労働者に対しては、使用者の方で、労働者と個別面談をするなどして、労働者の年次有給休暇に関する意向を踏まえて、労働者に意向に沿って年次有給休暇の時季指定をすることになります。

年次有給休暇の計画付与制度の導入

労使間で労使協定を締結して年次有給休暇の計画的付与制度を導入することにより、労働者の有する年次有給休暇のうち5日を超える部分について、使用者で労働者に対して計画的に年次有給休暇の時季を指定して付与することができます。

年次有給休暇の計画的付与には、事業場(全社)一斉付与、部署(班)別付与、個人別付与の概ね3つの方法があります。

計画的付与で使用者の時季指定義務と親和性が最もあると考えられるのは、個人別付与方式です。
個人別の年次有給休暇の計画的付与は、労使協定で、対象労働者を基準日において10日以上の年次有給休暇が新たに付与される労働者と定め、かつ計画的付与の期間を例えば各対象労働者の基準日以降1年以内などと定め(特に繁忙月がある場合は、当該月を計画的付与の期間から外しておくとよいでしょう)、計画的付与日の決定については基準日に労働者に年次有給休暇希望表を提出させ、使用者にて年次有給休暇の計画付与日を決定の上労働者に通知する方法によるなどと定めておきます。

なお、年次有給休暇の計画的付与制度を導入する場合、全社一斉付与方式や部署別付与方式では、そもそも5日を超える年次有給休暇を有さない労働者については、計画的付与により年次有給休暇日とされた日は、年次有給休暇日ではなく単なる会社の都合による休業となる場合があります。会社都合の休業は、使用者は休業を余儀なくされた労働者に対して労働基準法第26条に基づく1日当たりの平均賃金の6割の休業手当を支払わなければなりません。

基準日を変更(労働者ごとに異なる基準日を統一)した場合の年次有給休暇の按分

年次有給休暇の基準日を統一する

労働者の通年採用を実施している事業場では、労働者ごとに年次有給休暇の基準日がバラバラといった例が多々あります。このような事業場で年次有給休暇の時季指定義務を履行する場合、労働者ごとの年次有給休暇の管理が煩雑になるといったことがあります。こういったときに年次有給休暇の管理を容易にする方法として考えられるのが年次有給休暇の基準日の統一です。
例えばABCという3人の労働者がいた場合、Aの入社日が令和元年6月21日、Bの入社日が令和元年12月1日、Cの入社日が令和2年3月15日であれば、法律通りだと基準日はそれぞれ、Aは令和元年12月1日、Bは令和2年6月1日、Cは令和2年9月15日となります。そこでこの3人の基準日を例えば令和2年4月1日に統一するとします。このとき注意しなければならないのは、基準日の前倒しは労基法違反とはなりませんが、基準日の後ろ倒しは労基法違反になるということです。
例えばAの場合であれば、令和12月1日の基準日に10日の年次有給休暇を請求する権利を付与し翌年の令和2年4月1日に11日の年次有給休暇を請求する権利を付与するというのであれば、年次有給休暇の基準日の前倒しであり、労基法違反にはなりませんが、基準日の令和元年12月1日に10日の年次有給休暇を請求する権利を付与した翌年の令和2年12月1日に年次有給休暇を請求する権利を付与せずにその翌年の令和3年4月1日を新たな基準日として11日の年次有給休暇を請求する権利を付与するとした場合、年次有給休暇基準日の後ろ倒しとなり、労働基準法違反を問われます。
そうすると、ABCの3人の年次有給休暇基準日を令和2年4月1日に統一する方法は、Aの場合令和元年12月1日の翌年の令和2年4月1日を次の基準日に、Bの場合令和2年6月1日の翌年の令和3年4月1日を次の基準日にするかまたは採用後6か月を経過する前の採用後4か月経過後の令和2年4月1日を基準日に、Cの場合令和2年9月15日の翌年の令和3年4月1日を次の基準日にするかまたは採用後16日を経過した令和2年4月1日を基準日にするという方法であれば、労基法違反を問われずに基準日を統一することができます。

年次有給休暇の時季指定日数の按分

年次有給休暇の基準日を前倒しする形で変更した場合、基準日から次の基準日までに1年に満たないという事態が生じることがあります。
例えば、上の例でいえば、Aの場合令和元年12月1日の基準日を翌年の令和2年4月1日に前倒し変更すると、令和元年12月1日から翌年の令和2年4月1日まで4か月しかなく到底1年には及びません。こういった場合、使用者は労働者Aに対して年次有給休暇の時季指定義務をどのように履行すればよいのかといった問題が生じます。
結論としては、最初の基準日である令和元年12月1日から、次の基準日となる翌年の令和2年4月1日から1年を経過するまでの最初の基準日である令和元年12月1日の翌々年である令和3年3月31日までの間(1年4か月=16か月)に1年間(=12か月間)に5日の年次有給休暇を16か月間に按分して付与すればよいということになります。
つまり1年間に5日の年次有給休暇付与義務があるのであれば、16か月では6.7日≒7日(=(5日/12か月)×16か月)の付与義務があることとなるので、最初の基準日である令和元年12月1日から次の基準日である翌年の令和2年4月1日以降1年が経過する日である翌々年の令和3年3月31日までに6.5日または7日の年次有給休暇の時季指定義務を履行すればよいということになります。

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