監督官のお仕事ー送検ー

こんにちは
特定社会保険労務士のおくむらです。

今日は前回に引き続き労基署の監督官のお仕事についてお話ししたいと思います。

前回は、監督官の行政職員としてのお仕事についてお話ししました。
前回のブログはこちら>>>監督官のお仕事

今日は、監督官のもう一つの顔、司法警察員のお仕事です。労働基準法を紐解くとその第102条に、「労働基準監督官は、この法律違反について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。」とあります。

労基法上は、司法警察官とありますが、刑事訴訟法上は特別司法警察職員であり、かつ労働基準監督官は捜査や逮捕、検察への事件送致等の権限があるので司法警察員ということになります。ちなみに司法警察職員は、司法警察員と司法巡査とに分かれており、司法巡査(巷でよく見かける制服を着たお巡りさん)は裁判所に対する逮捕状請求や、事件送致等をすることは認められていません。司法警察員は司法巡査がする職務をすべてすることができ、かつ裁判所への逮捕状請求や事件送致等の職務を行うことができます。
労基署の監督官は、刑事ドラマでいうところの、刑事さんに相当します。

労働基準監督官が司法警察員としての職務を行うことができるのは、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、じん肺法、作業環境測定法、炭鉱災害による一酸化炭素中毒に関する特別措置法、賃金の支払の確保等に関する法律、家内労働法、以上の法律違反の罪についてです。

労基署で、監督官の話を聴いていると、時々「今、司法している」といったような会話を耳にします。これは、検察への送検のために事件の関係者から事実関係を聴取して調書を作成したり、証拠を整理したりして、送致書を作成している最中です。

なお、送検という言葉をよく耳にし、私自身送検という言葉を使いますが、送検は正確には検察官送致です。また、また、労基法違反や安衛法違反の場合、被疑者を逮捕勾留することはほとんどありませんので、通常は書類のみを検察送致するいわゆる書類送検となります。余談ですが、労働基準監督官は司法警察員としての権限が認められていますから、場合によっては被疑者を逮捕勾留することもできます(例えばこんな例があります⇒(「労働基準監督署」が悪質な経営者を「逮捕」)。私は見たことありませんが、被疑者を逮捕するために労基署には手錠や腰縄が用意されているということを元労働基準監督官から聞いたことがあります。

送検は労基法違反より安衛法違反?

さて、では労働基準監督官はどういった法違反があったときに、司法、の職務を行うのでしょうか?

次の表をご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

この表は福岡労働局が今年の6月26日に公表した報道資料です。労働局では管内各労基署の送検事案を定期的にこのように公表しています。会社側からすると残念かつ不名誉なことですが、送検事案は会社名や事業場名がこのように公表されてしまいます。

違反法条を見てみると、先ず安全衛生法違反が多いことに気づきます。安衛法違反での送検は、重大な死亡労災や被災労働者に重大な行為障害が残るような労災事故が発生したときで、専らその責任が事業者にあると判断される場合になされます。では具体的にどういった原因があるのかを見るには、違反法条と事案概要を確認するとある程度察しが付きます。

例えば、表の一番上の下村コンクリート工業(株)の事案では、違反法条の欄に労働安全衛生法第21条違反と続けて労働安全規則第519条とあります。事案概要には「高さ2.68mの作業床の端で、防網を張り又は安全帯を使用させることなく労働者に作業を行わせたもの」とあります。

そこで労働安全衛生法第21条を紐解くと、次のように定めています。
第1項 事業者は、掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
第2項 事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

また、安全衛生規則第519条は次のような定めになっています。
第1項 事業者は、高さが2メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼす恐れのある個所には、囲い、手すり、覆い等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。
第2項 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

以上の法律や規則、そして事案の概要に照らすと、この事案は、労働者が高さ2メートル以上の高所で作業を行っているとき、事業者が足場等の端に手すりや安全網を設置せず、かつ労働者に安全ベルトを着用させなかったため、作業中の労働者が誤って地上に転落し、死亡したか重大な障害が残るような大けがをしたものだと思われます。

労働安全衛生法は法律ですから、国会で審議され可決されたものです。しかし、安全衛生は広範かつ専門的で詳細ですから、安全衛生法の各条文は、抽象的であり、個別具体的な要件については、各法条の委任命令として厚生労働省令である労働安全衛生規則に規定されています。

したがって、労働安全衛生法違反での送検の場合、必ず労働安全衛生規則の定めに違反していることになります。

労働安全衛生法違反の次の多いのが、最低賃金法違反です。表中には4件の最低賃金法違反の事案が記載されています。もっとも、最低賃金法違反は、実は労基法第24条と被ります。つまり、使用者が労働者に対して、賃金不払いを起こして、最後まで賃金を支払わなかったために、労基署が事業主とその事業場の責任者を送検したものです。使用者が労働者に賃金を支払わないということは、当然ながら最低賃金も支払っていないことになります。こういった場合、労基署は、労基法に比べてより罰則が重い、最低賃金法違反で送検することになっています。ちなみに労基法第24条違反の場合、30万円の罰金ですが、最賃法第4条違反の場合、罰金額は50万円となります。

最後に、表の上から4番目の(株)さかえ屋の事案を見てみましょう。違反法条は労働基準法第32条違反となっています。事案概要は「労働者29名に、36協定の限度時間を超える違法な時間外労働を行わせたもの」とあります。

労基法第32条は、週の法定労働時間の40時間と1日の法定労働時間8時間を定めた条文です。しかし、事案概要には「36協定の限度時間を超える違法な時間外労働を行わせた」となっています。36協定は時間外・休日労働に関する労使協定のことです。36協定を労使間で締結した場合、その協定の範囲内であれば、法定労働時間を超えて使用者が労働者を労働させても、使用者は、労働時間に係る法違反を問われません。社労士の受験勉強をしていた時、36協定については免罰効果があると覚えた記憶があります。この免罰効果は36協定を締結することにより労基法32条違反を問われないということです。しかし、使用者が労働者を36協定で締結した限度時間の上限を超えて労働させた場合は、その限度時間を超えた部分については免罰効果が及ばないので、労基法第32条違反となります(労基法第36条違反ではありません)。

とはいうものの、通常労基署は、使用者が労働者を、36協定を締結せず、時間外労働を命じていたり、36協定で定める限度時間を超えて労働させていた場合でも、単にその事実があることをもって送検することはまずありません。まずは、労基署の監督官は事業場に対して、是正勧告を出して、事業場が法違反の状態を改めることを根気強く指導します。

32条違反での送検は、事業場の使用者が再三の監督官の指導を無視したり、指導を受けても労働時間の短縮等の改善が見られなかったような場合に、労基署は最終的な判断をするようです。

特に、32条違反の状態にある事業場で、長時間や過重労働を原因とする労災事故が発生したり、労働者による残業代不払いや長時間労働に係る申告が続いたり、そういった情報提供が多かったりすると、労基署は、行政から司法へ、職務を切り替えるようです。

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