採用内定取消しと解雇予告手当

こんにちは
特定社会保険労務士のおくむらです。

前回は、労働者の権利としては無い解雇予告手当請求権についてお話ししました。
前回のブログはこちら>>解雇予告手当支払い請求権

今日は、採用内定取消しの場合の、内定取り消しを受けた者に対する解雇予告についてお話をします。

労働局の相談員として監督署で相談を受けていると、内定取消しに関する相談をときどき受けます。採用内定取り消しというと、新卒者に対する内定取消しが世間の注目を受けやすいものですが、相談員として受ける内定取消しに関する相談は、転職者からの相談がほとんどです。

余談ですが、私は、社労士としても、労働者から何度から内定取消しに関する相談を受けたことがあり、実際、業務として個別労働関係紛争解決の労働者支援を行ったことも2度ほどあります。

内定取消しに関する業務は、内定を取消した会社に対して、一義的には内定取り消しの無効を主張し、予備的に会社が労働者に解決金を支払うことを条件に内定取消しに係る紛争について和解するというものです。

どちらもまずは労働者の代理人として労働局にあっせん申請を行いました。しかし、会社とあっせんでの和解に至らず、その後、労働者の裁判所への労働審判手続き本人申立て支援という形で、お手伝いさせていただきました。結果、労働審判廷で調停が成立して、紛争の解決に至りました。解決金はどちらも予定されていた賃金月額のおおよそ3ヶ月分でした。

転職者に対する内定取消しは、転職者にとって死活問題となる場合があります。転職者が、未だ別会社で勤務している場合、採用内定通知を受けてこれに応諾する意思を会社に示すと、通常は、現に勤務している会社に退職の意思表示をして会社を退職します。ところがそのが内定を出した会社がその取消しをその転職者にすると、転職者は意図せざる失業者になってしまい、予定していた収入が途切れることになってしまいます。雇用保険の失業等給付がもらえるだろうと仰る方がいるかもしれませんが、転職者は前職を自己都合退職しています。失業等給付の基本手当は3ヶ月間の給付制限が付いています。

内定は労働契約成立、内々定は労働契約未成立

採用内定の法的性質は、始期付解約権留保付労働契約と言われています。つまり、労働契約は成立しているのですが、未だ労働者に就労の始期が到来しておらず、事業主には労働者の就労の始期までに、一定の事由が生じれば労働契約を解約できるという権利が留保されているというものです。

これに対して内々定は、労働契約自体は未だ成立していません。内々定の法的性質としては、最高裁判例がないので確たることは言えませんが、事業主の就職希望者に対する労働契約の予約の承諾通知とでもいうのでしょうか。内々定の段階では、就職希望者は他社に対して就職活動を行ってもかまいませんし、他者の募集に対して、就職の申込みを行ってもかまいません。

内定取消しに係る労働トラブルとしてよくあるのが、内々定の取消しなのか、内定の取消しなのかが判然としないということです。内定取消しの場合は、事業主による労働者に対する労働契約の一方的な解約ですから、所謂解雇であり、労働契約法16条により事後に無効と判断される可能性があります。これに対して内々定の取消しであれば、未だ労働契約は成立していないのですから、解雇無効を判断する余地はなく、ただし、期待権を侵害されたという信義則違反を理由として、労働者に事業主に対する損害賠償請求権が認められるだけです。

内々定なのか内定なのかということの見極めは、個別事案ごとに事実関係を整理して判断するしかありません。通常新卒者の場合、事業主の内定通知に対して承諾書や誓約書等を事業主に提出することによって客観的に内定成立=労働契約成立を判断できます。ところが、転職者の場合、この辺りの手続きが混然としていて、しかも会社の社長ら人事担当者との口頭でのやり取りで終わっていることが多く、客観的に内定だと言い切れる証拠に乏しいことがほとんどです。尤も労基法上は、労働契約成立時に労働条件を文書で明示しなければならず、少なくとも内定時に労働条件通知書等を使用者は労働者に手交しておかなければなりません。

内定取消しにも解雇予告が必要?

内定は労働契約が成立しています。そうすると、もし事業主が労働者に対して内定を取消す場合、労基法20条に従って、解雇予告を通知する必要があるのでしょうか。結論から言うと、少なくとも行政解釈上は解雇予告通知が必要だということになります(ただし学者間の見解では解雇予告は不要との考え方が支配的だそうです)。では、内定取消しが即日解雇と同視しうる場合、使用者は労働者に解雇予告手当を支払わなければならないのでしょうか。

前回のブログで、労働者には解雇予告手当請求権がないというお話をしました。そうすると、内定を取消された労働者は、会社に対して解雇予告手当の支払いを求めることはできないということになります。解雇予告は、使用者が即時解雇にこだわらないのであれば、解雇通知後30日の経過を以て解雇の効力が生じることになります。

では、内定を取消された労働者は事業主に対して、民法536条2項に基づき、30日分の解雇予告期間中の賃金の支払を請求できるのでしょうか。これはもちろん否です。賃金は労働の対価として支払われるものですから、労働者の賃金支払い請求権は、労働者が実際に労働に従事した後に賃金請求権が発生することになります。内定は未だ会社での就労の始期を迎えておらずかつ現に就労をしていないことがほとんどです。そうであれば、内定を取消された段階では、労働者に賃金支払い請求権はありません。

労基法26条の休業手当はどうでしょうか。残念ながらこれも請求することは難しいように思います。労基法26条の休業手当は、使用者の責に帰すべき事由により労働者が休業する場合に、休業中の生活保護として、使用者に支払いが義務付けられているものです。この使用者の責に帰すべき事由は、民法536条2項の債権者の責に帰すべき事由よりもより広義に解されていて、おおよそ天災事変を除いては、どういった事情による場合でも、使用者が労働者を休業させた場合には休業手当の支払いが必要となります。
ところで、休業手当は労働者の労働義務がある日に使用者が労働者を休業させた場合に、その日の生活保護として使用者に支払い義務が発生します。内定の場合、労働者には就労の始期に達していないので、就労の義務がありません。就労義務のない日に対する休業手当という考えは、例えば会社が休日と定めた日に対する休業手当をいうようで、理に適っていません。そもそも、内定の段階では、事業主が内定を受けた労働者の生活保護まで考慮すべき事情もないように思います。

内定取消しは地位確認か損害賠償

内定取消しを受けた労働者は、労基法20条や26条に基づく保護を受けることは難しいようです。

ただし、内定取消しも法的には解雇である以上、内定取消しの無効確認や内定を取消されなかったならば得られたであろう賃金を逸失利益として損害賠償を請求するということは十分考えられます。

内定取消しは、事業主に留保解約権の行使を認めるに足る取消し事由がなければ、効力としては無効であり、無効と判断されれば、内定を取消された者は、取消し時点まで遡って(実際は就労始期時点まで遡って)、労働者としての地位が認められることになります。そうすると当然就労始期に達した後の労働日に対する賃金支払い請求権も生じることになります。
また、内定を取消すような会社で就労したくないということであれば、逸失利益や慰謝料などの損害の賠償を請求することも考えられます。

使用者は安易に内定を出さないこと

内々定の取消しであっても内定取消しであっても、労働者が争ってきた場合には、使用者の方で、内々定の取消しや内定取消し事由を主張立証することを求められるのではないかと思います。

私の経験上、内定取消しの場合、解決金(和解金)は賃金の3ヶ月分前後でした。他に会社は弁護士を代理人に立てていましたので、弁護士費用の負担もあったでしょう。1日たりとも働いていない、会社の利益に全く貢献していない者に対して使うお金ほど無駄なものはありません。

人手不足だと言って、安易に求人を出し、応募してきたものをロクに審査もせず即採用内定を出すほど愚かな行為はありません。正社員として採用を予定するものであれば、内定を出すまでに2回以上の面接と適性検査、そして可能であれば体験入社ということで数日間実際に会社で勤務してもらって、会社も労働者を審査して労働者も会社を審査する、そういったことは必要なのではないでしょうか。

 

 

 

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