事業の経営担当者の立場からすると、労働に係る契約は、労務の提供とこれに対する報酬の支払いを本旨として、市場原理の下に、私法の契約自由の原則に則り、当事者双方が対等の立場で当事者双方の意思の合致により成立するということが当然だと考えてしまいます。しかし実際には、今日に至るまでの歴史が教えるところとして、労働に従事する者はこれを使用するものに比して、相対的に弱者であり、労使対等の立場で契約を締結することができないという考えが普遍的です。そこで、相対的弱者と考えられているいわゆる労働者を保護する目的で憲法以下労働基準法を始めとする労働者保護に係る多くの法律が制定されています。これらの法律は強行法規として労働条件の最低基準を規定しており、結果として事業主や使用者に多くの法律上の義務を課しています。これらの事業主に対する義務は経営上の制約条件となり、そのために事業の経営担当者の中には脱法や法を潜脱することに知恵を注ぐ方もおられるようですが、日本の労働人口が減少過程にある中にあってかつICT技術の進歩著しい情報伝達速度が光速に等しい今日にあっては、それは風評となり、真綿で首を締める様に徐々に事業経営を悪化させていきます。むしろ、労働契約とは何かを十二分に理解した上で、今後10年先20年先を見据えて、優秀な人材の定着のために労働契約を結ぶ場合のその内容たる労働条件の整備や、そもそも労働契約である必要があるのかどうかを大局的な見地から検討する必要があるでしょう。

人の能力の提供を対象とする3つの契約ー労務供給契約ー

民法では、労務供給契約として、①雇用、②請負、③委任の3つの契約を定めています。

雇用契約とは

雇用契約とは、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することと、これに対して他の一方がその報酬を支払うことを内容とする契約です。
雇用契約では、被用者が雇用者の指揮命令に従って労働に従事することに対して報酬が支払われます。
雇用契約は、事業主のために使用者の指揮命令を受けて労働して、これに対して時給・日給・月給といった時間を単位に計算された報酬を支払ってもらうという一番身近な契約です。労働契約とほとんど同義ですが、厳密には、労働基準法で定める労働者と使用者との間で締結される契約を労働契約と考えますので、雇用契約であっても労働基準法の対象とはならない契約は労働契約とは言えません。

請負契約とは

請負契約とは、当事者の一方が仕事を完成させること、これに対して他の一方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約です。
請負契約では、請負人が、注文者の注文に応じて仕事を行い、それによって完成(完了)した事物に対して注文者が請負人に報酬を支払います。仕事の進め方や手段、使用する道具等は請負人が自身の裁量により決定することができます。建物を新築する場合の施主と施工業者、交通機関における乗客と旅客鉄道・バス・航空機・船・タクシー業者、貨物輸送における荷主と運送業者、建設工事における元請けと下請け業者、といった関係にある契約が請負契約の例となります。

委任契約とは

委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを委託し、他の一方がこれを承諾することを内容とする契約です。法律行為とは、契約を申込んだり、申込まれた契約を承諾して契約を成立させたり、現に成立している契約を解除したりといった、法律上の権利や義務が発生したりあるいは消滅したりすることを伴うこと(法律効果が発生すること)を認識した上でその意思を表明することです。委任契約に報酬の支払いを特約すると有償委任契約となります。また、当事者の一方が、法律行為ではなく単に事務手続き等を代行することを委託し、他の一方がこれを承諾することを内容とする契約を準委任契約と言います。
有償の委任契約(準委任契約)は、依頼人のために受任者が業務を遂行することに対して報酬が発生します。したがって、受任者が誠実に業務を遂行したとしても、依頼人が当初意図した通りの結果に至らないことがあり、そういった場合でも通常は依頼者に受任者に対する報酬の支払い義務が発生します。
有償の委任契約の例としては、弁護士に対する代理委任契約があります。当事者が第三者との契約交渉を弁護士に依頼する契約や、訴訟の遂行を弁護士に依頼する契約等が代表的な例です。有償の代理委任契約は、弁護士法を始めとする専ら士業に係る法律により厳格に規定されており、法律で定められた資格を有さない者が有資格者に成りすまして代理行為を行うような契約は公序良俗に反して契約自体が無効と判断される恐れがあります。
有償の準委任契約の例としては、税理士・使用書士・社労士・行政書士といった法律に則って事務を代行する契約や、医師が怪我や病気を治療する契約等が挙げられます。また、いわゆる水商売で接客を担当して、売上に対して一定割合を報酬としてオーナーから支払ってもらうような契約も準委任契約と判断される場合があります(水商売の接客であっても、報酬の計算の基礎が時給制や日給制を中心に歩合が付加されるものや、違法な罰金性を設けて遅刻や欠勤にペナルティを科しているような条件を設けている場合は使用従属関係を基礎づける事実となり労働契約という判断になりやすい)。

労働契約とは

労働契約とは、概ね雇用契約と同義ですが、契約の当事者が労働基準法の適用の対象となる使用者と労働者との間で締結される契約という点で、より厳格に解釈されます。

労働基準法の適用対象となる契約

労働契約法では、労働契約の成立について次のように規定しています。
「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」(労働契約法第6条)
つまり労働契約とは、労働者が使用者の指揮命令を受けて業務に従事(労働)し、その対償として使用者が労働者に対して賃金を支払うことを主たる内容とする契約ということです。
ここで労働者とは、「・・・職業の種類を問わず、事業または事業所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」のことをいいます(労働基準法第9条)。
また使用者とは、「・・・事業主または事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」のことをいいます(労働基準法第10条)。したがって、使用者は、法人であれば法人そのものを指すだけでなく、法人の代表者を指すこともあり、実際に労働者を管理監督する立場にある個々の事業所の長(工場長であったり、支店長であったり)や、部課等の長を指すこともあります。

労働基準法の適用対象とならない契約

労働基準法の適用の対象外となるのは、同居の親族のみを使用する事業と家事使用人についてです。例えば、従業員を雇入れずに家族だけで営まれている商店や飲食店等では、経営者である父や母と子との間で使用従属関係が認められたとしても、労働基準法の適用対象とはならないので、雇用契約ではあっても労働契約とは言えません。また、個人宅でお手伝いさんとして家政婦を雇入れる場合もその当事者間での契約は労働契約とは言えません。もっとも、家族経営の商店等でも、家族ではない従業員を雇入れて、その従業員と同様の条件で家族が働いているような場合は、事業主(例えば父)と家族(例えば子)との間の契約は労働契約と解されることもあります。また、家政婦であってもその家政婦が家政婦を派遣する会社に登録をしてその家政婦派遣会社の指示を受けて個人宅でお手伝いさんとして業務を行っている場合は、その家政婦と家政婦派遣会社との間には労働契約が成立していることになります。

国家公務員の一般職員は、労働基準法の適用対象とはなりません。
地方公務員の一般職員は、労働基準法の一部を除く大部分が適用対象となります。ただし、監督機関は労働基準監督署ではなく、地方公共団体の人事委員会、又は人事委員会が置かれていない地方公共団体にあってはその長が監督機関の権限を行使することになっています。
船員法の適用対象となる船舶で労働する船員の労働条件等については、労働基準法の特別法である船員法が優先します。監督機関は国土交通省(海事局)の地方運輸局(運輸支局)の海上安全環境部となり、監督や船員法違反に係る司法警察員の職務等は船員労務官(平成17年4月以降は運行管理官と船員労務官が統合され「運航労務管理官」という。)が行います。

労働契約か否かは労働者性の有無を見て判断する雇用契約・請負契約・有償(準)委任契約の3つの労務供給契約は私法の一般法である民法で規定する契約ですから、契約内容については、公序良俗に反しない限り、当事者が自由にその内容を定めることができます。しかし、労働契約の場合、契約の内容の大部分を占めることになる労働条件については、労働基準法を始めとするいくつかの労働法により最低基準が規定されており、各法律で規定されている最低基準を下回る労働条件については、たとえ当事者間で合意があったとしても強制的に無効となります。そして無効となった部分は法律で規定されている最低基準にまで強制的に引き上げられることになります。
そうすると、現実的な問題として、例えば、事業主が請負契約と考えて他の一方の当事者と契約を締結し業務を行わせていた場合に、その後行政機関である労働基準監督署や、訴訟に発展したときに司法機関である裁判所が当該契約を労働契約と判断した場合、当該契約のうち、労働基準法で定める最低基準を下回る当事者間の個別の契約部分はすべて労働基準法で定める基準に引き上げられるだけではなく、一方当事者は労働者として契約締結時に遡って労災保険法の対象となる被保険者となり、さらに所定労働時間等によっては雇用保険法の対象となる被保険者となります。かつ労働者であれば、所定労働時間によっては厚生年金保険や健康保険の被保険者となることもあります。そうすると事業主は、契約締結時まで遡って労働保険料や厚生年金保険料・健康保険料の事業主負担分の保険料だけではなく場合によっては本来労働者が負担すべき保険料についても、事業主が肩代わりして負担しなければならないことにもなります。では、労働契約か否かが問われた場合、行政機関である労働基準監督署や司法機関である裁判所は、どういった方法でそれを判断しているのでしょうか。結論から言うと、契約の一方当事者の労働者性の有無を判断することにより労働契約か否かを判断しています。
労働者性の判断要素としては

  1. 指揮命令の有無(使用従属性)
  2. 報酬の決定や計算方法(報酬の労務対償性)
  3. 費用負担や責任の程度(事業者性)
  4. 他社の業務に従事できるか否か(専属性)
  5. 事業所の他の労働者との相違の程度(その他の事情)

概ね以上の1ないし5が考えられます。

労働者性の判断要素

1.指揮命令の有無(使用従属性)

イ.仕事の依頼や業務に従事することへの諾否の自由の有無

使用者からの具体的な仕事の依頼や業務に従事することへの指示に対して拒否する自由がない場合は、労働者性があるとの重要な要素となります。

ロ.業務遂行上の指揮命令等の有無

業務の内容やその遂行方法等について使用者の具体的な指揮命令を受けている場合は、労働者性があるとの重要な要素となります。

ハ.拘束性の有無

勤務場所が指定されている、始業終業時刻や休憩時間、休日等が指定されている場合は労働者性がある要素の一つとなります。但し建設現場等で安全確保の必要性から業務を行う場所や業務を行う時間等が指定されており、それに従って業務を遂行しているような場合もあるので、そういった業務の性質等といった点を考慮する必要があります。
また、本人に代わって他者が労務を提供することや、本人自身の判断で補助者を使うことが認められているような場合は、労働者性を否定する要素となります。

2.報酬の決定や計算方法(報酬の労務対償性)

報酬の計算方法が、時間給、日給、月給といった時間を単位に決められている、欠勤や遅刻等をした場合に相応の控除やペナルティ(減給の制裁)が行われる、残業に対する手当が支払われる党の事実は、労働者性を肯定する要素となります。

3.費用負担や責任の程度(事業者性)

イ.機械・器具その他仕事に使用する物の費用の程度

仕事に使用するために本人が持ち込む機械や器具等が著しく高額である場合には、労働者性を否定する要素となります。

ロ.報酬の額が従業員に比べて高額

同様の業務に従事する事業所の従業員と比べて著しく高額の報酬を受け取っている場合は、労働者性を否定する要素となります。

4.他社の業務に従事できるか否か(専属性)

他社の業務に従事することが制限されている場合や、時間の制約により現実的に他社で業務に従事することが困難である場合には、一つの会社等に対する専属性が強く認められるので、労働者性を補完する要素となります。
また、報酬に毎月決まって支給される固定給がある場合は、労働者性を補完する要素となります。

5.事業所の他の労働者との相違の程度(その他の事情)

事業主が、労働保険の適用対象としている、健康保険や厚生年金保険の被保険者である、会社が作成した就業規則等に定めるの服務規律を適用している、報酬を給与所得として源泉徴収している等、事業所の従業員と同様に扱っている場合は労働者性を補完する要素となります。

労働契約と労働条件

労働条件とは

労働条件とは、労働者が従事する業務の内容、労働契約の期間、賃金、労働時間(始業終業時刻・休憩・休日等)、休暇、安全衛生、賞罰、福利厚生等、労働者が使用者の指揮命令を受けて就業する際の労働者の権利義務について定めたものです。企業は、業務を効率的に遂行できるように、業務の内容ごとに区分して細分化し、それらを有機的に結合して組織化します。したがって組織の中で使用者の指揮命令を受けて就労する労働者の労働条件についてもある程度画一的に整理し統一化体系化しておく必要があります。そこで労働条件については、労働者の契約形態ごとに適用される条件を区分して明文化し、周知しておく必要があります。労働条件を明文化して綴ったものを一般に就業規則と言います。

就業規則の内容が合理的な場合は労働契約の内容となる

就業規則で規定される労働条件は労働基準法を始めとする労働法で定める最低基準を下回ってはいけません。また、社会の秩序や善良な風俗を乱す内容であってもいけません。就業規則の内容がこれら二つの要件を満たした労働条件で構成されている場合、就業規則の内容は労働契約の内容となります。
就業規則は、使用者が事業の効率的運営を考慮して一方的に作成します。そしてその適用は事業所で就労する労働者全員が受けます。
ところで、契約の当事者の一方が他の一方の多数に及ぶ当事者との契約を定型的に扱うために予め作成した条項類のことを約款といいます。私たちが保険会社と保険契約を結ぶときや、不動産管理会社とマンションやアパートなどの賃貸借契約を結ぶとき、銀行や貸金業者と金銭消費貸借契約を結ぶときなど、虫眼鏡を使わなければ読み取れないような小さな文字でびっしりと書かれた契約上の権利や義務について明記された約款を手交されます。もっとも通常私たちは、約款を詳細に読み込み契約の内容をすべて理解するようなことはしません。何かあったときに、約款を紐解くだけです。時々、病気になったり怪我を負ったりしたときに、保険加入者が保険者である保険会社に保険金の支払いを請求したら、保険会社からそれは対象外の病気や怪我だから保険金の支払には応じられない、などと回答されトラブルになることがあります。こういったときに保険会社の担当者は、「約款に書いてあります」などと言ったりします。約款の内容について当事者がその内容を知っていようがいまいが、諸々の条件については約款によるとの認識がありかつその約款が周知されていれば、約款の内容は法律に準じた効力を有することとなります。つまり、契約の当事者間で何かトラブルが生じたときには、約款の規定を解釈して、規定の対象となる事実の有無を確認することで、権利の存否を判断します。例えば保険金の支払いについて、保険加入者と保険会社との間で争いがあるときは、約款の規定を解釈して保険金の支払いの対象となる事実は何かを整理して、実際に保険加入者に保険金支払いの対象となる事実の有無を確認することで、保険金が支払われるべきか否かを判断します。
実は就業規則もこの約款と同しです。労働条件については就業規則によるとの認識が労使双方にあり、かつ就業規則が周知されていれば、その就業規則は労働契約の内容として、労使双方の権利義務関係について、法律に準じた効力を有することになります。

労使間の個々の労働契約は就業規則で定める条件を下回ることができない

個別の労働契約については、事業主(実際は経営担当者であったり人事権を有する担当者等の使用者)と労働者個人との間で締結します。このとき、賃金や労働時間等について就業規則で定める条件を下回る内容で労使間で個別の労働契約を締結してはいけません。就業規則の内容が労働契約の内容として全労働者に対して集合的に機能することを考えれば、当然のことです。もっとも、就業規則で定める条件は、それを下回る労働条件はないという意味で労働条件の下限を規定しているものですから、就業規則で定める条件を基準としてそれより労働者にとって有利な条件を労使間で個別に契約する場合は、その個別の労働条件は契約内容として有効であり、かつ就業規則で定める労働条件に優先することになります。

労働契約と労働法

労働契約たる労働条件には法律により制限がある

労働条件については労働基準法を始めとするいくつかの労働関係諸法令で最低基準が法定されています。例えば、労働時間については労働基準法で、1週40時間(常時10人未満の労働者を使用する小売店・飲食店・診療所・理美容室・映画館等は1週44時間)かつ1日8時間の労働時間の上限が定められています。法定労働時間を超えるいわゆる残業は、就業規則で規定があったとしても、労働基準法第36条で定める時間外労働・休日労働に関する労使協定(通称「サブロク協定」)が労使間で締結されかつ事業所を管轄労働基準監督署に届け出られていなければ、その規定は無効となります。このように労働条件については法律で最低基準が定められ、かつ就業規則等で定める労働条件は労働契約の内容となるから、結局労働契約は法律によって内容に制限が加えられていることになります。労働基準法を始めとする労働関係諸法は多くが行政法として、法違反には刑事罰を科すことをもって強行的に労働条件の最低基準を規律しています。また、労働基準監督署や労働局といった行政機関が、労働基準法や最低賃金法等法律で定める労働条件の最低基準を下回る労働条件を定めている事業所や、安全衛生法で定める安全や衛生に係る基準に達していない労働環境で労働者を労働させている事業所を監督し、悪質な事業所については司法警察員の権限を行使して送検するなど警察と同等の公権力を以て、法違反に目を光らせています。

労働関係の主な法律

以下に労働関係の主な法律を挙げておきます。

  • 労働基準法
  • 最低賃金法
  • 賃金の支払の確保等に関する法律
  • 労働安全衛生法
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)
  • 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)
  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
  • 専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法(有期雇用特措法)
  • 高年齢者の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)
  • 障害者の雇用の促進に関する法律(障害者雇用促進法)
  • 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)
  • 労働者災害補償保険法
  • 雇用保険法
  • 職業安定法
  • 労働関係調整法
  • 労働組合法
  • 労働者災害補償保険法
  • 厚生年金保険法
  • 健康保険法
  • 国民年金法
  • 国民健康保険法
  • 介護保険法
  • 労働契約法
  • 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働関係紛争解決促進法)
  • 裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律(ADR法)
  • 労働審判法
  • 船員法
  • 船員保険法
  • 家内労働法
  • 港湾労働法
  • 公益通報者保護法
  • 障害者虐待の防止、障害者の擁護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)

労働契約か否かの実際

労働契約か否かについて争いとなる原因

概ね次のようなことをきっかけとして労働契約か否か、つまり当事者の労働者性の有無が判断されます。

  1. 業務遂行中の事故
  2. 当事者間の契約解除
  3. 報酬の不払い

1.業務遂行中の事故等

労働基準法上の労働者が業務遂行中または業務に起因して怪我を負ったり病気に罹った場合、政府管掌の労災保険が適用されることにより、治療費については療養補償給付としてその全額が補償され、休業中の所得補償については休業4日目以降について休業補償給付として給付基礎日額(労働基準法上の平均賃金と同義)の6割が、休業特別支給金と合わせると給付基礎日額の8割が、補償されます。また、治癒した場合に障害が残った場合は障害の程度に応じて障害補償年金や障害補償一時金が支給されます。万が一、労働者が業務災害により死亡した場合、その遺族に遺族補償年金が支給されます。労災保険は、保険料を事業主が全額負担することとなっており、労働者に保険料負担の義務はありません。このように労働者が業務中もしくは業務に起因して怪我を負ったり病気に罹った場合には、手厚い補償が受けられます。
そこで、請負契約や業務委託契約(有償準委任契約)により業務に従事していた当事者が、業務中に事故等に遭い治療や休業を余儀なくされた場合に、実質は労働者として業務に従事していたとして、労働基準監督署に療養補償給付(療養の費用)や休業補償給付等の労災保険の支給を請求することがあります。請求を受けた労働基準監督署では内容を審査して、当事者に労働者性が認められない場合は、不支給の決定を下します。不支給の決定を受けた当事者は、労災保険審査官に審査請求をし、労災保険審査官が原処分を取消さず審査請求を棄却した場合は、さらに労働保険審査会に対して再審査請求をします。再審査請求が労働保険審査会で棄却された場合、これに納得できなければ裁判所に対して国を被告として取消訴訟を提起して判断を仰ぐことになります。なお現在は労災保険法が一部改正されており、審査請求が棄却された時点で再審査請求を行うことなく裁判所に取消訴訟を提起することもできます。

2.当事者間の契約解除

当事者間で、請負契約や業務委託契約を締結していた場合に、何らかの事情により当事者の一方(通常は注文者又は委任者)が他の一方に対して契約解除の意思を通知したとき、その通知を受けた当事者は、自身が実質労働者として業務に従事していたから、契約の解除は解雇であり、労働契約法第16条又は会社の就業規則の解雇規定に照らし違法無効であるといった主張をしてくることがあります。労働契約関係にある当事者間で一方当事者である使用者が他の一方当事者である労働者を解雇する場合、手続き面において民法に優先する労働基準法第20条により30日以上前までの解雇予告か、予告をしない場合には解雇予告手当の支払いを義務付けており、かつ私人間の契約という面では、労働契約法第16条が、使用者の解雇に対する労働者の抗弁の理由として権利の濫用を規定しています(解雇権濫用法理)。労働者が使用者に解雇の無効を主張してきた場合、使用者は労働契約法第16条又は会社の就業規則の解雇規定に照らして、解雇が無効ではないことを、その具体的事実を証拠により証明して主張しなければなりません。しかも日本の裁判所は、使用者の労働者に対する解雇について、真に解雇理由たる事由が存在するか(解雇事由該当性)をかなり厳格に判断しており、かつ解雇事由該当性があると認められる場合であっても、それが解雇を肯定するほどのことかといった相当性についても厳格に判断しています。結局、解雇権については使用者に固有の権利として認められているものの、その行使についてはかなり限定的にしか認められていないというのが現状です。そうすると、契約当事者の一方に労働者性が認められる場合、その契約の解除は解雇となり、解雇であれば解雇権濫用法理により使用者に解雇事由該当性に関して主張立証責任を負わせかつその評価や相当性について厳格に判断されることになります。

3.報酬の不払い

報酬の不払いに関しては、当初の契約通りの報酬が支払われない場合と、契約の一方当事者が業務遂行時間に対して報酬が少なすぎるという場合があります。前者については、いわゆる水商売のホステスやホストに対する経営者の報酬の不払いや罰金という名目で報酬を一部あるいは全部支払わないという場合が多く該当します。また後者については、悪意の使用者が残業代や社会保険料の負担の軽減を狙って、使用従属性が認められる業務内容であるにもかかわらず、その業務の一部あるいは全部について形式上請負契約や業務委託契約として契約を締結している場合です。これらのほとんどは、こういったことに疑問を抱いた労働者が労働基準監督署を始めとする行政機関等の相談コーナーや弁護士等士業の専門家に相談することによって発覚します。

労働契約か否かが判断された裁判例等

労働契約か否かが争われた例として、トラックドライバー(庸車)、一人親方の大工、ホステスの3つを挙げておきます。この3つのうち、トラックドライバーと大工等の一人親方については、業務遂行中の事故により怪我などを負った当事者が、労働基準監督署に労災請求を行ったときに、労働者性の有無が争いとなる例が多いようです。ホステス(ホスト)については、クラブのオーナーがホステスやホストに対して契約の解除を通知したときに、ホステス等がオーナーに対して、当該契約は労働契約であったとして解雇予告手当の支払や未払い賃金の支払等を請求することにより、労働者性の有無が争いとなる例が多いようです。

トラックドライバー(庸車)の労働者性の有無

(1)肯定された例
(2)否定された例
(3)考慮要素

一人親方の労働者性の有無

(1)肯定された例
(2)否定された例
(3)考慮要素

ホステスの労働者性の有無

(1)肯定された例

大阪地裁 平成17年8月26日判決 クラブ「イシカワ」(入店契約)事件

ホステスがクラブの経営者から契約解除を通知されたことを契機として、クラブの経営者に対して解雇予告手当等の支払いを求めた例。裁判所は当該ホステスの労働者性を認め請求を容認した。

ア.仕事依頼の諾否の自由
出勤を義務付けられており、かつ同伴義務が課せられていたのに、接客サービスを提供しない自由があったとは考えにくいから、仕事依頼の諾否の自由はなかった。
イ.業務に係る指揮命令
接客サービスの提供の内容というものはおのずと決まっており、X(本件の原告であるホステス、以下同じ。)はクラブにおいてY(本件の被告である経営者、以下同じ。)からその遂行を求められていたことは当然。加えて、本件クラブでは、毎月21日に点呼が実施されており、顧客に関する情報の提供や交換、その他重要な事項等が伝達されていた。これらの機会を通じてXはYから指揮監督がなされていた。
ウ.拘束性
入店契約では、勤務場所、勤務時間、勤務日が定められており、入店時刻についてはタイムカードで管理されていた。かつ遅刻や欠勤した場合にはペナルティが課せられることとなっていた。Xが補助者を使うことが認められていたことを裏付ける証拠はなく、むしろ、クラブとホステスの契約の場合、契約の成否はホステスの個人的な要素に負うところが極めて高く、代替性のない労務ということができる。したがって拘束性を有していた。
エ.報酬の労務対償性
Xの報酬主体は日給からなり、1日出勤すると原則として日給3万円が支払われており、売上小計が多ければ加算され、少なければ減額されていたが減額の下限は2万8000円だった。また売上小計については、達成されなかった場合でも直ちに契約を解除されることはなかったから売上目標であったと考えられる。以上からYがXに支払った報酬については労務対償性を認めることができる。
オ.費用負担
クラブの什器備品等は、Yが費用負担をしていた。接客で着用する衣服については、Xが負担しており、かつ衣服の費用は高額であった。しかし、Yが費用負担していた什器費用等はクラブの営業で必須のものであったことに比べると、Xが負担していた衣服の費用が高額であることを理由に、Xに事業者性を認めることはできない。
カ.報酬の額
Xの報酬を時給換算すると7000円以上となり、高額というべきであるが、事業者性を認めなければならないほどに高額ということはできない。
キ.専属性
Xは(昼間に)他社の業務に従事することを制約されていない。しかし、Xが同じ種類のクラブに自己の勤務時間帯に勤務すること自体はありえず、自己の勤務時間外に他の業務に従事することは可能であるとしても、そのことのみによって専属性を否定することはできない。
ク.その他
口座客(注)を持っているホステスをデパートのテナントと同視することはできない。Xには口座客に対する請求金額を自由に設定する権限は一切ない。売上を有するホステスを事業主とする慣習があるとしても強行法規を排斥することはできない。所得税や社会保険上等でホステスが事業主として扱われていたとしても、労働基準法の適用を受ける雇用契約であるか否かが問題となっている場合には、それら事実が直ちに契約の性質を決定づける(要素)とは言えない。

(注)口座客とは:ホステスが担当する顧客のこと。クラブでは顧客ごとに担当するホステスが決まっており、その顧客が来店した場合、担当のホステスが実際に接客しなくても、担当のホステスに売上が計上される(ただし、担当ホステスの代わりに接客したいわゆるヘルプにはその売上の中から一定の報酬が支払われる)。そして、本来のホステスの報酬は、売上から税金とサービス料を控除して一定の率を乗じた額がクラブの経営者から支払われる。こういったことから会計用語の口座に客が繋がって用いられるようになった。

(2)否定された例

東京地裁 平成27年11月5日判決 Mコーポレーション事件

クラブのホステスがクラブ経営者から契約を解除されたため、主位的には労働契約が成立しており契約解除は解雇であるとして地位確認(解雇無効)と解雇期間中の賃金支払い請求、予備的に業務委託契約を解除されたことによって生じた損害賠償請求を訴えたもの。裁判所は本件クラブホステスの労働者性を否定したが、業務委託契約解除を理由とする損害賠償請求については認めた。

ア.仕事依頼の諾否の自由
X(本件クラブのホステス、以下同じ。)は、Xの顧客にY(本件接待飲食店であるクラブの経営会社、以下同じ。)の店舗への来店を勧誘して、これに応じてXの顧客がYに来店した日には、XがYにて接客していたが、Xの顧客が来店する予定のない日には、Xは出勤する必要がなかった。
イ.業務に係る指揮命令
Xが挨拶の仕方や接客の方法等について、Yから具体的な指示を受けていたとは認められない。XがYの店長から付随的な業務について一定の指示を受けていたことをもって、XがYから指揮命令を受けて業務を遂行していたとまで評価することはできない。
ウ.拘束性
XとYとの契約書には出勤日や出勤時間が決められていたが、実際にはXの顧客が来店する予定のない日には出勤する必要がなく、欠勤や遅刻によりXの報酬が減額されることはなかった。
エ.報酬の労務対償性
Xの報酬は、Xの勧誘に応じて来店したXの顧客の売上の60%だった。一方、Yの下で働く他のホステスは、日給制だった。Xの報酬は、接客の対価ではなく、顧客をY の店舗への来店を勧誘してYに利益をもたらすことへの対価だった。
オ.費用負担
不明。什器費用はYの負担だったものと思われる。衣服等の費用はXの負担だったものと思われる。
カ.報酬の額
XがYから受け取った報酬の額
平成25年11月は118万円(出勤日数11日),同年12月は247万円(〃17日),平成26年11月は60万円(同15日),同年2月は100万円(同6日)
キ.専属性
不明。もっともXがYの店舗に顧客を勧誘してこれに応じて来店した顧客を接待する以上、XがYの店舗以外に顧客を勧誘することは考えにくい。
ク.その他の事情
XとYとの間に結ばれた契約の期間は1年間だった。また、当初の契約では出勤日は月曜日から金曜日、時間は午後9時から翌午前1時だった。但し上述のとおり、実際の出勤日や時間は、XがXの顧客の来店の状況に応じて自由に決めることができた。
YはXとの契約解除の理由を、
①XがYと契約を締結するに当たり、月額300万円以上の売上を約束したにもかかわらず、1回しか売上月額300万円以上を実現しなかった。
②Xが、Yの店舗で人気のあるホステスをXの安価に飲ませている顧客の席に優先的に着かせるように差配したため、Yの店舗固有の顧客の不興を買い、Yが本来期待できた売り上げを減少させた。
③XがYの店舗でのくりすますイベントに非協力的だった。
④XがYの店舗のホステスの同伴客をYの同意なく自分の顧客に切り替えた。
⑤Yの担当者がXに対して、再三注意したが、Xは態度を改めず、そのためにYの店舗の他のホステスや従業員の不満が増し店の雰囲気が悪くなった。
しかし、Xは上記①ないし⑤をいずれも否認し、Yは①ないし⑤に係る事実を立証できなかった。裁判所は、したがって、契約期間中途での契約解除の理由たるやむを得ない事由があったとは認められないとして、業務委託解除によって生じたXの損害198万円を認定して、Yにこの損害賠償を命じた。なお、Xが当初請求していた損害賠償金は約1200万円だったが、XはYから契約を解除された以降、別のクラブと契約を締結して業務に従事し、本来の契約期間満了の11月までに約900万円の報酬を得ていたので、その部分については減額された。

(3)考慮要素

上記の2つの例を比較すると、ホステス等の労働者性の判断要素としては概ね次の2点に集約されるように思われます。
使用従属性
出勤日や出勤時間が決められているか、タイムカード等で出退勤時刻が管理されているか、罰金等(罰金等はそれ自体が公序良俗に反して無効と判断されることがある)により実質的に出勤が強制されているか、ホステスの自由意思による出勤が認められていたか、ミーティング等により実質的に業務遂行に係る使用者からの指示を受けて業務に従事していたか。特に、遅刻や欠勤に対する罰金等のペナルティは、ホステスの出勤の自由を拘束するものとして、労働者性を肯定する方向に働く点に注意が必要です。
報酬の労務対償性
報酬の計算方法が売上に対する一定割合とされている場合は、その労務対償性を否定する方向に働きます。逆に、時給や日給を基本として、これに歩合が加算されるような場合は、労務対償性を肯定する方向に働きます。

 

 

 

 

 

労働契約と労働法