労働相談の受け方

労働相談は、労働社会保険諸法令が多岐にわたりしかもそれぞれの法律が労使の権利義務に関する事柄と労働社会保険等の手続に関する事柄とに分かれ複雑なので、先ずは相談者が何を知りたいのかを的確に把握し、その上で、法律上の権利義務に関する事柄については、公法については行政による法律の解釈に基づいた権利や義務を、労使トラブル等私法上の事柄については、学説や裁判例等に基づく法律の解釈に基づいた権利や義務を、労働社会保険等の手続については法律で定められた手続きの方法等を説明しなければなりません。もっとも複雑怪奇な諸法令を知識として網羅することは不可能ですから、実際の相談を受けるにあたって、回答や説明をする段階では、それぞれの諸法令に関する専門書や行政通達、厚生労働者が作成しているリーフレットなどを都度見ながらで構いませんし、自分自身で説明や回答できない事柄については、専門部署に引き継いでもらうことでも構いません。正確な説明や回答をするのであれば、むしろ専門部署に引き継いだ方が賢明です。

労働相談を受けるに際して重要なのは、専門知識の習得と的確な説明回答能力ではなく、相談者が何に困って何を知りたいのかを的確に把握する能力です。この能力はつまるところ、相談者の話しを聴く能力、つまり傾聴力です。
相談にあたって多くの専門家や行政職員が陥りがちな勘違いは、法令に照らした的確な説明や回答をすることが最も大切だと考えていることです。そのために、そういった専門家や行政職員は相談者の話しを聴く、ではなく相談者に訊く、になってしまい、最悪な場合警察署での刑事さんの取り調べのような訊問のように法的に意味のある事実に関する質問ばかりを相談者にぶつけ、そのために相談者が委縮し、あるいは憤慨して、相談がぶち壊しになってしまうことにもなります。

確かに立場上法令に照らした的確な説明や回答をすることは大切ですが、しかしその場で自身の知識で回答や説明できないことは、その場で専門書や通達、リーフレットを見ながらで対応できますし、すぐに説明や回答できない難問は少し時間をおいて調べて、それから説明や回答することでも対応できます。そうすると、相談や回答をする能力は後からいくらでも補完できることですから、それ以上に大切なのは、相談者が何に困って何を知りたいかを的確に判断するための聴く力、傾聴力だということになります。

傾聴力というと、静かに人の話しを聴く力だと思うかもしれません。確かにそれは重要な要素です。しかし、それ以上に大切なのは、相談者が、話しているときに、相談対応者が真剣に自分の話しを聴いてくれていると意識的にせよ無意識的にせよ、分かってくれるように聴く力です。

相談対応者は、相談者が困ったことを解決したいというときに、なぜその困ったことを解決したいのか、その理由を知っておいたほうがいいことがあります。
例えば相談者の会社に残業代を請求したいという相談の場合、未払いの残業代を会社に支払ってもらうことによって、在職中に会社が認めなかった相談者の頑張り(これが相談者の中で矛盾となって残っている)を会社に認めさせる(自己矛盾が解消される)という本質的な目的が達成されることも考えられます。また相談者が付き合っていた恋人と別れてしまった場合、その原因は相談者にあるのではなく、相談者に残業することを余儀なくさせてそのために恋人とすれ違いが多くなったという原因を会社が作ったから、という責任の所在を会社に求めるためということもあるかもしれません。
そもそも相談者の話す相談内容は法的に回答して解決できる事柄ではなく、相談者が相談員等相談対応者に相談することや単に話すこと自体で満足や効用が得られて、別に回答や説明がなくっても、それで相談者の目先の目的が達成されることも少なからずあります。

そういった相談者の相談の本質を見極めるためにも、まずは相談者の話す内容をじっくりと聴き、相談者が相談対応者にもっと話しをしたくなるように、積極的に聴くことが大切です。

そうはいっても皆さん、自分が他人に向かって話しているときと、他人の話しをじっと聴いているときとでは、どちらが楽ですか?ほとんどの人が自分が他人に向かって話しをしているときの方が楽なはずです。他人の話しを聴き続けることは苦痛です。
私も相談員として、過去に、相談者の話しを2時間超一方的に聴き続けた経験があります。しかもその相談者が結局知りたかったことは最寄りの年金事務所の所在地でした。私はその相談を受けた後、どっと疲れが出ました。帰宅後いつもより多くの酒を飲んだことは当然のことです。
聴く仕事というのは、決して楽ではありません。

傾聴力は、だから忍耐力というものも求められますが、相談者からより多くの必要な情報を聞き出すための、傾聴技法というものもあります。相談者が、いろんなことをペラペラ喋ってもらう、しゃべりたくなるような相談対応者の技法です。労働相談は、相談者にとっては人生相談になることもしばしばあります。相談対応者にはそれにこたえられるための能力としての傾聴力が求められます。

傾聴技法については追々述べさせていただきます。

文責 社会保険労務士おくむらおふぃす 奥村隆信

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