同一労働同一賃金 二つの最高裁判例を読む

昨日の朝は、一昨日の最高裁判決のうちの大阪医大の賞与不支給の事件の最高裁判決文を読みました。今日は今朝から、一昨日の最高裁判決のうちのもう一方の東京メトロの売店(メトロコマース)の退職金不支給の方の判決文を読みました。


最高裁判所は、一昨日の2つの事件に関して、労契法20条違反に当たるか否かの判断をするにあたり、共通して、事業主が正社員や正職員(以下「正社員等」ということにします。)にのみ賞与制度や退職金制度を設けた目的に着目しています。すなわち、大阪医大の賞与不支給の事件の方は、「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。」と述べ、メトロコマースの退職金不支給の事件の方は、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対して退職金を支給することとしたものと言える。」と述べています。つまり最高裁判所は、事業主が正社員等として職務を遂行し得る人材の確保や定着を図る目的のもと、賞与なり退職金なりの制度を設けていたことを着目して且つ重視しています。

次に、正社員等にのみ賞与なり退職金なりを支給しアルバイトや契約社員に対してこれらを支給しないことが労契法20条に違反するか否かを、「業務の内容及び業務に伴う責任の程度」(職務の内容)と「その他の事情」という考慮要素に具体的な事実を当てはめて検討しています。

職務の内容については、アルバイトや契約社員の比較対象となる正社員等の配転の可能性や責任の程度、業務の難易度等から、正社員等とアルバイトや契約社員等との間には一定の相違があったことを認定しています。

その他の事情については、比較対象となる正社員等の業務に従事する数が減少してきてその代わりにアルバイトや契約社員が当該業務を従事するようになってきているにもかかわらず現在も一部の正社員等がその業務に従事していることの理由に着目しています。

例えば大阪医大の賞与不支給の事件の方では、教室事務員の業務は、以前は正職員が行っていたが現在はほとんどをアルバイト職員に置き換えてきたこと、一部の教室事務員については、正職員をアルバイトに置き換えずに残しているがこれは業務の難易度や専門性の問題から使用者の判断によってそのようになっていることを指摘しています。
メトロコマースの退職金不支給事件の方については、正社員は、売店業務に従事する従業員の2割にも満たず、そのうちの半数は契約社員から正社員に登用された者であることや、売店の再編や職務経歴等から他の部署に配置転換することが難しいといった事情を指摘しています。

また、2つの事件の事業主はいずれもアルバイトや契約社員からの正社員等への登用制度を設けており、実際登用制度を利用して正社員になった者が複数いることも指摘しています。

つまり「その他の事情」について、まず比較対象となった正社員等については、ある一定程度のやむを得ない事情があって引き続き正社員等がアルバイトや契約社員と同様の業務に従事していたこと、アルバイトや契約社員であっても、それらの者が希望し且つ相応の能力を有する場合には正社員等へ登用される道が開かれていたことを最高裁判所を指摘しているのです。

最高裁判所は、賞与や退職金について、事業主に正社員等の「職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」があってこれら制度を設けていることを第一義にとらえ、この目的に照らしてアルバイトや契約社員に対して賞与や退職金を支給しないことが労契法20条に照らし不合理か否かを、具体的事実を考慮要素に当てはめて総合的に評価しています。考慮要素として特に、不合理性の判断に当たってアルバイトや契約社員と比較対象とされた正社員等の事情(正社員等の数が減少し代わりにアルバイトや契約社員が増えていっている中で、なぜ正社員等が残っているのか)と、アルバイトや契約社員であっても正社員等へ登用される道があり現に少なくはない数の者が正社員に登用されていたこと、といった「その他の事情」を汲んでいます。

確かに、賞与や退職金を支給する目的が、賃金の後払いや功労報償といったその性質に照らして、正社員としての、職務を遂行し得る人材の確保やその定着であるのであれば、それは事業主の経営上の判断や権利とし最大限尊重すべきです。

他方において、労契法20条やパートタイム有期雇用労働法8条の理念に照らして、かつ非正規の労働者が増え正規の社員が減少している現状に鑑み、日本が法を通じて実現しようとしている同一労働同一賃金(均等均衡待遇)との整合性をどのように図るのかといった問題もある。

また特に退職金については、ある程度の長期雇用を前提として対象となる労働者につきその原資を積み立てて充てるところ、当初予定になかった労働者についても退職金を支払わなければならないとすると、退職金に充てるべき原資をどこから持ってくるのかという現実の問題も生じる。

メトロコマースの最高裁判決では、2名の裁判官の補足意見と1名の裁判官の反対意見があった。

宇賀克也裁判官の反対意見は、退職金の功労報償的性質に着目して、また実際上の契約社員と比較対象となった正社員との業務に大きな差がないことに着目して(均衡待遇の観点から)、退職金を全く支給しないとすることは不合理である旨述べられている。

また林道治裁判官と林景一裁判官は、(今回の裁判はともかく)、今後はパートタイム・有期雇用労働法の理念に照らして労使交渉を経るなどして均衡の取れた待遇を図っていくこと、現に有期契約労働者に対して退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり、個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり、有期契約労働者に対して在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう、といった旨述べられている。

最後に社労士の実務として考えれば、就業規則の作成や変更に際して、賞与や退職金制度を規定する場合に、どうしてもこれを正社員に限定するのであれば、条文に「正社員として職務を遂行し得る人材の確保やその定着」を目的とすることを明らかにして、かつこれらの算定方法を可能な限り功労報償部分を強めることとなるよう設定すべきということになる。

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