有期労働者(契約社員)の均衡待遇ー最高裁判例から―その4 定年後再雇用労働者

こんにちは
特定社会保険労務士のおくむらです。

今日のブログは前回に引き続き、正社員と定年後再雇用嘱託社員に係る労働契約法20条に基づく労働条件の均衡待遇について、長澤運輸事件の最高裁判決を基に検討したいと思います。

長澤運輸事件の最高裁判決は、有期労働契約の下で働く労働者であっても、定年後に、高年齢者雇用安定法に基づいて65歳までの雇用延長のために会社に再雇用されている場合は、定年後再雇用であるという事情は、契約期間の有無に起因する正社員と契約社員との労働条件の相違が不合理か否かの判断をするにあたっての考慮要素の一つに含まれるとしています。そして、不合理性を判断する際の3つの考慮要素(①職務内容や責任の程度、②職務の変更の範囲や配置の変更の範囲、③その他の事情)はそれぞれが総合考慮する要素であり、職務内容や、職務・配置の変更の範囲の相違とこれらに関連する(その他の事情)に限定されるものではないとしています。つまり、定年後再雇用という事実は、職務内容の相違や、職務・配置の変更の範囲の相違といった要素と同等の要素として考慮すべき対象となるということです。

個別の賃金項目とその連関と年収の相違

前回述べた取り、原審の東京高裁では、賃金の総額を比較して、賃金項目ごとにその趣旨(性質)を深く検討することなく、考慮要素に照らして、正社員と定年後嘱託社員との年収の相違が2割程度(定年後嘱託乗務員の年収は平均して正社員の79%)であり、正社員と嘱託乗務員の相違をなるべく縮めるよう努力を払ってきたから、不合理ではないと判断していました。

この点、最高裁は、賃金項目ごとにその趣旨を解釈して他の賃金項目との連関も考慮し、その上で嘱託乗務員と正社員の年収の総額の相違も考慮して判断しています。今回の事件の場合、会社は、嘱託乗務員の年収をなるべく正社員との相違を縮めるために、賃金項目を個別に調整していました。つまり賃金項目を他の賃金項目と連関させて、嘱託乗務員と正社員の年収の相違を縮める努力を払っていたのです。最高裁は次のとおり述べています。
「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される。」

正社員と嘱託乗務員の賃金項目及び項目ごとの賃金額等は次のとおりです。

正社員
・基本給 月給制(在籍1年目を8万9100円とし、在籍1年につき800円を加算、在籍41年面の12万1100円が上限)
・能率給 撒車のトン数に応じて月稼働額の3.15%~4.60%を乗じた額を支給
・職務給 撒車のトン数に応じて7万6952円~8万2900円を支給
・精勤手当 満勤者に5000円を支給
・無事故手当 1か月間無事故であった者に対して5000円を支給
・住宅手当 職種、地域、その他に応じて1万円を支給
・家族手当 配偶者について5000円、子一人について5000円(二人まで)各支給
・役付手当 役付者である班長に3000円、組長に1500円を支給
・超勤手当 時間外労働に対して時間外勤務手当、休日労働に対して休日勤務手当を各支給
・通勤手当 4万円を限度して公共交通機関の1ヶ月定期券相当額を支給
・賞与 基本給の5ヶ月分を支給(ただし出勤率80%未満の者には出勤率を適用し、事故1件につき5000円[2件まで]を減額、100円未満を四捨五入)
・退職金 3年以上勤務した現務員(運転手、作業員、整備員)に退職金を支給

定年後再雇用嘱託乗務員
・基本賃金 12万5000円
・歩合給 撒車のトン数に応じて月稼働額の7%~12%を乗じた額を支給
・無事故手当 5000円
・調整給 老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について月額2万円を支給
・通勤手当 4万円を限度して公共交通機関の1ヶ月定期券相当額を支給
・時間外手当 法定労働時間を超える時間外勤務、法定休日、深夜勤務に対して、労基法所定の割増賃金を支給
・欠勤控除 基本給、無事故手当は日割り、通勤手当は出勤率85%未満の場合に日割り
・賞与 不支給
・退職金 不支給

最高裁の正社員と嘱託乗務員の賃金項目ごとの比較と不合理性の判断

正社員に対して、基本給、能率給及び職務給を支給し、嘱託乗務員に対して基本賃金、歩合給を支給し、能率給及び職務給を支給しないことについて

1.正社員の基本給と嘱託乗務員の基本賃金は、乗務員の稼働額にかかわらず固定的に支払われる賃金。嘱託乗務員の基本賃金は、正社員の退職時の基本給の額を上回っている。

2.正社員の職能給と嘱託乗務員の歩合給は、乗務員の労務の成果に対する賃金。嘱託乗務員の歩合給に係る係数は、正社員の能率給に係る係数の2倍から3倍に設定している。

3.会社は労使間の団体交渉を経て、嘱託乗務員について基本賃金を増額し、歩合給に係る係数の一部を嘱託乗務員に有利に変更している。

以上1ないし3から、会社は、正社員に支給される職務給を嘱託乗務員に支給しない代わりに、基本賃金の額を定年時の水準以上として嘱託乗務員の収入の安定に配慮し、歩合給に係る係数を能率給よりも高く設定することによって労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫している。これらのことから正社員の基本給、能率給及び職務給が、嘱託乗務員の基本賃金及び歩合給に対応するものであり不合理性の判断に際して考慮されるべきである。

嘱託乗務員が正社員と同様の賃金を会社から支給されていたとした場合と現状を比較した場合、減額率は2%から12%となる。さらに、嘱託乗務員に対しては、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまで2万円の調整給が会社から支給される。
⇒労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない

嘱託乗務員に対して精勤手当が支給されないことについて

精勤手当の趣旨は、従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励するもの。正社員と嘱託乗務員の職務内容が同一である以上、両者の間で皆勤を奨励する必要性に相違はない。
労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる

正社員に支給される住宅手当及び家族手当が、嘱託乗務員に支給されないことについて

住宅手当の趣旨は従業員の住宅費の負担に対する補助で、家族手当の趣旨は従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助で、いずれも福利厚生及び生活保障として支給されるもの。
嘱託乗務員は、正社員として勤続した後に定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、報酬比例部分の支給が開始されるまでは会社から調整給が支給される。
⇒労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない

嘱託乗務員に役付手当が支給されないことについて

役付手当は正社員の中から指定された役付者(嘱託乗務員の中からは役付者は指定されない)であることに対して支給されるもの。
⇒労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない

嘱託乗務員の時間外手当と正社員の超勤手当の相違について

嘱託乗務員に対して精勤手当を支給しないことは、精勤手当の趣旨に照らして不合理であるから、精勤手当を時間外手当の計算の基礎に含めなければならないはず。
労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる

嘱託乗務員に対して賞与が支給されないことについて

賞与は、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等多様な趣旨を含み得るもの。嘱託乗務員は定年後再雇用された者であり、定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、報酬比例部分の支給が開始されるまでの間は会社から調整給が支給される。また嘱託乗務員の年収は定年退職前の79%程度。
⇒労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない

会社が定年後再雇用する労働者に対する賃金に係る留意すべき点

以上、最高裁の判断からいえることは、定年後再雇用という事実は、正社員と定年後再雇用の有期契約社員(嘱託社員)の賃金の相違が不合理か否かを判断するに当たって、考慮要素となり、年収ベースで正社員と嘱託社員に相違があったとしても必ずしも不合理ではないと言えます。ただし、均衡待遇という点からいえば、正社員と嘱託社員との年収の相違が諸々の事情に照らして均衡を欠くほどの相違であると、不合理と判断される恐れがあります。

ではどの程度の相違であれば、不合理ではないと言えるのかについては、最高裁判所は具体的な数値で示してはいません。恐らく、企業ごとの諸々の事情、その企業の属する業界の事情、社会一般の現状に照らして、不合理ではない範囲は、争いになったときに個々に判断されるのではないでしょうか。
尤も常識的な判断をするならば、定年時の年収と比較して嘱託社員の年収が70%を下回るようであれば、危険かもしれません。この点については、原審の東京高裁が認定した事実として、運輸業の平均として定年時の年収水準を100とした場合に、定年後の嘱託社員の年収は平均値が68.3、中央値が70.0とのことです。

また、最高裁判所は、嘱託社員の賃金に係る条件について、基本的には労使間の交渉、労使自治に委ねられるべきであるとしています。したがって、労働者の過半数で組織された労働組合がある場合には団体交渉を行い、そういった労働組合がない場合には、過半数労働者の代表と嘱託社員の代表との話し合い等を通じて、正社員と嘱託社員の年収の相違を縮める努力を払っておくことが重要です。

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